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Vol.109 この時代に新設される大学って大丈夫なの?

 少子化が社会問題となっている現在でも、看護医療福祉系を中心として大学の新設や学部学科の開設は終わることがありません。急激に変わる社会構造に合わせて生じる新たな課題にいち早く対応しなければならないからです。ところが、新しい大学には正直に申し上げて不安な部分も見え隠れするもの。その実態を国がきちんと調査・公表していることをご存知でしょうか。

「設置計画履行状況等調査」という厳しい調査

 この調査は、開校後の大学運営状況を確認するために行われており「アフターケア」と呼ばれることもあるようです。国立・公立・私立の区別もなく、学部も看護だろうが教育だろうが関係なく、調査は原則として「開校してから初の卒業生が出るまで」継続して行われ、「意見なし」「改善意見」「是正意見」という3段階に分かれています。ある年度で「是正意見」が出された際に翌年改善されていないと「警告」が出され、これは次回以降の設置認可に影響があるということで大学にとっては最も恐れるものだそうです。「警告」まで至らなくても、運営状況が芳しくなく改善状況が不十分と見なされれば調査対象となる期間が延長されたり、場合によっては改善措置の報告義務や実地視察なども行われたりするといいますから、大学にとっては大変厳しい調査となっています。
 数年前のことですが「中学生レベルの授業(アルファベットレベルから復習する英語)」が行われている大学についての報道を覚えておられる方もいらっしゃるでしょう。こうした報道も、この調査の「大学教育水準とは見受けられない授業科目がある」という評価を基にして行われているのです。過去の公表内容について、看護医療系の大学を中心にいくつか見てみましょう。
(平成27年度)横浜創英大学
看護学部においては、完成年度を迎えると同時に14人もの専任教員が辞任しており、かつ、「小児看護学実習Ⅰ」「小児看護学実習Ⅱ」「在宅看護方法論Ⅰ」「在宅看護方法論Ⅱ」等、主要科目として位置付けられている科目に専任教員が配置されていない、または専任ではあっても講師が担当している状態が散見される。(看護学部看護学科)
(平成27年度)新潟医療福祉大学
シラバスにおいて、1単位の科目の回数が7回となっていたり、さらに7回目が定期試験と記載されている科目等が見受けられたり、大学設置基準に見合った授業時間数を確保できていない科目が見受けられる。単位当たりに必要な授業時間数を適切に確保するとともに、シラバスは実態と整合した記載とすること。(医療技術学部視機能科学科)
(平成26年度)つくば国際大学
授業科目「物理」「化学」「生物」について、大学教育水準とは見受けられない内容であることから、大学教育の質の担保の観点から、学士課程に相応しい授業内容となるよう見直すか正規外授業(リメディアル教育)で補完すること。(医療保健学部診療放射線学科)
(平成26年度)宝塚大学
実習内容について、実習担当の教員や補助者によって実習水準に差が生じていると見受けられ、さらに入学定員超過の対応策として実習補助者に実習指導を依存するなど、大学として責任ある実習教育の実施に懸念があるため、実習水準確保の方策について検討すること。(看護学部看護学科)
 いかがでしょうか。ここまでハッキリと公表されてしまうのですから、大学側も早急な改善に取り組まないと翌年以降の入学者確保に支障をきたすことはわかっています。ほとんどの大学は、これをきっかけにして教育環境を向上・充実させていきますので、今回紹介したいくつかの大学についても、おそらく皆さまのお子さまが大学受験に向かう数年後にはその実情は変わっていることでしょう。

平成28年度の調査結果

 個別の大学に対する評価を見ていく一方で、「意見なし」という評価をもらう大学がいったいどの程度あるのかも知っておかないと、新設大学の「全体像」をつかむことはできません。最新の平成28年度調査結果では、調査対象校443校(国立76、公立25、私立342)について、設置計画の履行状況が不適当とされたのは237校、意見が付されなかったのは206校でした。
 対象となった443校のうち半数以上の大学に改善を求める意見がついたことについて、関係者であれば重く受け止めるべきですが、これをもって「だから新設大学は信用できない!」と決めつけるのは少々乱暴であることをお伝えしておかなければなりません。
 実は、この最新の調査結果の中身をよく見ると、前述のような厳しい意見が相次いだ過去の結果とは傾向が変わっているのです。今回目立ったのは、
・定員充足率が7割未満あるいは大幅に定員を超過している大学は、しっかり定員管理をしなさい
・定年規定を超えた高齢教員が多い、主要授業科目を専任教員が担当できない状況の大学は、しっかり教員補充をしなさい
の2点です。教員補充については、世の中が変化するスピードに授業の質が追いつけないという懸念や、教員の退職や不足がもたらす「継続的な教育の質の低下」の問題が生じますから、ここから数年間の大きな課題として提起されたものと思われます。その一方で、過去数年間目立った「大学教育水準とは見受けられない授業」に関する指摘はありませんでした。報道による反響の大きさからでしょうか、就職試験対策といった名称に変えて外部の業者を使いながら、土日や夏・春休みを使って中学生レベルの補習授業を行ったり、映像教材を用いて高校までの未習内容を補完するシステムを導入したりするなどの対策を施すことが標準化されてきたからだと思われます。入学者の学力レベルの推移は別としても、入学者に対するケアのシステムは確実に向上しており、新設大学の課題は次のステップに進んでいることがわかるのです。

  国立 公立 私立
意見が付された大学・短大 2校 6校 229校 237校
  是正意見が付された大学・短大 0校 0校 2校 2校
改善意見が付された大学・短大 2校 6校 229校 237校
意見が付されなかった大学・短大 74校 19校 113校 206校
76校 25校 342校 443校

※1校に是正意見と改善意見が付されている場合があります。

 大学選びの基準としてまだまだ偏差値が重宝される一方で、社会のニーズに対応する形で、偏差値に関係なく役割を担っている大学が多数登場しています。特に看護・医療・福祉といった分野では、30年前であれば専門学校が担っていた役割の多くが大学に移管されていますから、偏差値の高低によらずその地域で働いてくれる人材を養成するという点で新設大学の役割は無視できません。
 「be動詞や分数の計算がわからない者を大学生として入学させるなんてけしからん」という声があることは事実ですが、大学進学率が50%を軽く超えている現在においては、最初に集まってくるのはこのような学生ばかりでしょう。彼らをしっかりと育て上げて地域に還元することで大学の評価は決まっていくはずです。最低限の教育水準は国の調査によって担保されているわけですから、もしも将来お子さまの志望学部・学科の中にまだ歴史の浅い大学が含まれていた場合には、どうか最初から色眼鏡で見て切り捨てることなくその中身を吟味してあげてください。歴史が浅いからこそじっくりと丁寧に学生と向きあっている大学も多いのですから。

vol.109 ブンブンどりむ 保護者向け情報誌「ぱぁとなぁ」2017年5月号掲載

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