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Vol.43 「グローバルな人材」に必要な資質・能力とは何か

 

 昨年にも増して厳しさが予想される大学生の就職活動事情ですが、日本を取り巻く環境が激変していることもあって、企業がより一層の「グローバルな人材」を求める傾向が強くなっているようです。それは、学生を採用する際の基準の変更にも現れており、まさにこの数年間が「分岐点」となることが予想されています。これから先、企業は学生に対してどのような資質や能力を求めるのでしょうか。誌面の許す限り紹介していきたいと思います。

企業の採用基準が変化している

 企業の新卒採用方法には二つの大きな変化があります。一つ目は「日本国外の採用強化」です。ソニーは2013年度の新卒採用において外国人の割合を30%まで高めると発表しました。日本国内の大学に留学している外国人を積極的に採用することはもちろん、アジアの理工系大学などに人事担当者が直接出向いて採用する道も開くそうです。これまでは、日本で採用した人材を教育してグローバル化に対応する企業が多かったようですが、海外にも拠点を持つ企業を中心に採用方法が変わりつつあります。
 日本経済団体連合会の行った「産業界の求める人材像と大学教育への期待に関するアンケート」の調査結果(図1・図2)によると、

           

 社員の海外勤務を想定している企業は4割に達し、採用はもちろん経営に関してもその人材を日本人に限定しない企業が3割に迫っているのです。最近の勢いを考えると、近い将来この数値は逆転することでしょう。こうした企業はパナソニックからユニクロ、ローソンまで多業種であり、大学生の就職活動のあり方そのものに影響を及ぼすかもしれません。
 二つ目の大きな変化は「語学力」です。武田薬品工業では2013年入社の新卒採用から、応募条件にTOEIC730点以上(満点は990点)の基準を設けると発表しました。この730点は「どんな状況でも適切なコミュニケーションができる素地を備えているレベル」とのことです。武田薬品は、昨年研究部門トップに外国人が就任し、取締役会も英語で開くなどグローバル化が急速に進んでいる企業の一つで、「机を並べる上司・同僚が日本人ではない」光景が恒常化することを前提に準備していると思われます。野村ホールディングスではTOEIC860点以上の英語力と専門性を持つ新入社員を高額優遇する給与体系を取り入れ話題となりました。他にも「採用の際に学校名は一切見ない代わりに、語学力についてTOEICの得点を目安にする」といった、「英語力がなければ門前払い」という方針を打ち出す企業も、今後増加することが予想されます。     

しかし「語学力」だけでは就職できない

 こうした話題を中学生にすると、一部の生徒からは「では、とにかく英語力を磨けばいいのか」という短絡的な声が聞こえてくることがあります。自分が数学担当だということもあって「英語だけじゃダメでしょ、数学も!」と笑いながら答えることにしているのですが、「語学力はあって当たり前、語学力があることはアドバンテージにはならない」という考えが採用する側では一般的だということを、子どもたちはもちろんのこと、保護者の皆さんにも知っておいてほしいと思います。

           

 こうした調査結果からも、企業が最も求める資質や能力が主体性・創造力といった「自分で考える力」であり、その自分の考えを主張する手段が「外国語」であることが求められているにすぎないことを理解しておきたいところです。海外で仕事をする際には、異なる文化や慣習で育ってきた人たちとの付き合い方が問われます。相手を理解しながら仕事を進めていくためには、臨機応変に対応する「観察眼」が求められます。これがないと、いくら語学に堪能であったとしても仕事で成功することは難しいでしょう。そしてこの「観察眼」は、学生時代に自分自身で考え・動いた多種多様な経験でのみ養われるものだと私は考えます。これこそが企業が求める「自分で考える力」の正体だと思うのですが、皆さんはいかがお考えでしょうか。

 この予測は当たってほしくないのですが、「採用基準にTOEICの点数が使われる」ことが報道されるようになると、おそらく日本では「TOEICのスコアを上げるための勉強」を求める風潮が広がることでしょう。私立中学や英語塾の中には「生徒集めのツール」として上手に利用するところも出てくるかもしれません。しかしながら、これからのグローバル時代を生き抜く子どもたちにとって、中学・高校時代も含めて最も経験しなければならないことは「自ら考える力の育成」、具体的には「自分の考えを書いたり話したりして表現する習慣と観察眼の育成」です。お子さまの成長に応じて、英語を始めとする外国語の勉強に時間を割くようになることは当然ですが、それと並行して現在取り組んでいる「自分の考えをまとめて書く」習慣も、ぜひ続けてほしいと思います。母語である日本語で表現できないものは、外国語でも表現できるはずがありませんよね。     

vol.43 ブンブンどりむ 保護者向け情報誌「ぱぁとなぁ」2011年 10月号掲載

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