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Vol.57 子どもたちよ、理系に進め

 

 先日、私は中高生向けの講演会に参加しました。現在「理系の仕事」に就いている35歳前後の女性3名が登壇し、仕事の説明や生活(2名は子育て中)のこと、そして中高生の頃には何を考えどんな準備を心がけていたのかなどを、子どもたちにわかりやすく紹介し、理系への興味を持ってもらうことが目的でした。その中身の多くが小学生とその保護者にもつながっていましたので、できる限り紹介していこうと思います。

小学生から始まっている「理科離れ」

 最初の登壇者は、科学実験教室を立ち上げ自らも講師として子どもたちに接している方でした。彼女は、今の子どもたちに欠けているとされる「問題解決力・表現力」について、その中身や背景についてわかりやすく説明してくれました。
 その例として紹介されたのが「マッチの使い方」でした。ほとんどの子どもたちがマッチの使い方を知らない状態で実験教室に参加してくるので、最初は使い方を教えるそうです。すると、「外側から内側へ」、つまり自分の体に向けてマッチを擦る子どもが少なくないというのです。そのため、この段階で「なぜ?」「どうして?」という投げかけが始まるそうです。彼女は言います。
 「理科の実験では、頭の中で理解した知識の他に、目配り気配りでいろいろ注意することがある。『こうしたら危ない』という想像力を働かせること(問題解決力につながる)はもちろん、気づかない友達にわかりやすく伝えてあげること(表現力につながる)も、経験を積んではじめてできるようになるのです」
 また、実験を通して見える「現在の子どもたち」の特徴については「教科書どおりの答えを求める傾向が強い」そうです。教室は「計画・仮説→実験→結果→考察」の順に授業が進むのですが、事前に実験テーマを予習してくる子が多く、しかもその予習が「検索して結果を覚えてくる(しかも検索上位のサイトだけをチェックするので、皆同じサイトを見ている)」ことなので、結果や考察の段階で子どもたちに問いかけると「全く同じ答えを発する」ことがよくあるそうです。そのためでしょうか、実験が予定通りに進み、予定通りの結果にならないと気にいらない子どもが増えているとのことです。彼女は「世間でよく言われる『失敗を恐れる』とは違います」と念押ししていましたが、ここに2人目の登壇者の言葉を重ねると、その意味が理解できます。
 「私は、予定外のことが起こったときのワクワク感が忘れられず、いつのまにかこの仕事に就いた」
 この方は生物学の研究のために南極探検隊の一員として南極へ複数回行かれており、講演ではペンギンをはじめとする動物の写真紹介や「南極あるある」を披露され、皆が彼女の話にすいこまれていきました。その彼女が最も力をいれて参加者に語りかけた言葉が、この「ワクワク感の大切さ」でした。
 私は、ここに「子どもたちの理科離れ」の実態を見た気がしました。普段の生活はもちろん、実験教室の場においてさえも予定調和を求めワクワク感を抱けないとしたら、予定外のことが起こる自然科学には興味を持てないでしょう。逆に言えば、日常生活にちょっと気を配るだけでも「理科を好きになる」チャンスはあるということです。

 

求められる「理系の新しい役割」

 3人目の登壇者は大学准教授の方でした。彼女は「科学コミュニケーション」という新分野の必要性を話し、この分野には女性の進出が求められていると力説されました。
 この分野は「科学と社会のよりよい未来設計図を描く」ために不可欠だといいます。震災後の日本で考えると、地震予知や放射線といった事柄を通して科学者の説明が国民にとってわかりにくかったり、不安を解消するまでに至らなかったりという事例があったこと、などを例に挙げていました。その上で、これらを解決するためには科学者が変わる(説明能力の向上など)必要があること、科学者に対する倫理教育も今後必要になること、そしてこれらを担う役割やポジションが空いていることを意識して勉強してほしいというメッセージを発信していました。
 また、女性ならではの視点として、「私の母世代は、外で仕事をすること自体少なかった。私の世代では、女性が仕事を持つことは普通になったが、まだまだ理系の仕事に携わっている人は少ない。だから、私の子ども世代においては、理系分野に女性が進出することが普通になっていてほしい。そのためには、今から社会に出て行こうとする女性たちの積極性に期待する」と力説されていました。
 確かに理系の仕事といえば、白衣を着て研究室にこもっている姿を想像しがちですが、この科学コミュニケーションという新分野においては、理系の知識もさることながら、情報発信力や表現力といった文系理系の枠を超えた資質が要求されます。「これならやれる!」と考える人も多いのではないでしょうか。


文理選択における数学の影響

 私が中学生や高校生と接している限り、文系理系の進路選択の際に「数学」との相性が大きく影響するケースをよく目にします。「数学が苦手だから(切り捨てて)文系」といった選択をする人は、特に女子に多く見られるのですが、はたしてこの方々はどうだったのでしょうか。
 意外なことに3人とも「数学は得意ではなかった」と答えました。むしろ国語や社会のほうが得意だったという答えを聞いて、参加していた子どもたちもびっくりしていたほどです。
 そして3人が口を揃えて言っていたのは「進路選択では自分の興味関心を優先させた」「英語や数学は、その道の専門家になろうとしない限り道具でしかない。最低限のスキルとして使いこなせればいいので、学校の勉強やテストにおいては(合格できるライン)そこそこでかまわない」ということでした。特に南極探検隊の女性の「私は数学が苦手だったが逃げなかった。今考えると、悩んで失敗してそれでも考えたそのプロセスや経験が、今でも活きている」という発言には、私は心の中で拍手を送りました。

 最後に、先日ノーベル医学・生理学賞を受賞された山中伸弥教授の言葉を紹介します。
 若い優秀な人が科学技術を志してくれないと話にならない。iPS細胞だけを見てもこんなのは数年で終わるものではなくて、5年、10年、20年とどんどん続いていくものです。そのときに支えてくれる人はいまの高校生であったり、大学生であったり、もっと小学生であったりするわけです。優秀な子どもたちが、どうしたら科学技術に入ってきてくれるのだろうか。
 理系に進む子どもたちの芽は、小学生である今この瞬間にも育っているのです。

vol.57 ブンブンどりむ 保護者向け情報誌「ぱぁとなぁ」2012年 12月号掲載

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