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Vol.6 大学合格実績の「水増し」の背景を考える

 

 昨年、複数の私立高校が生徒の受験費用を負担して大学合格実績を「水増し」していた問題が話題になりました。「水増し」とあえて「」をつけたのは、厳密に言えば水増しという表現が正しいものではないからです。不合格もしくは受験していない生徒を「合格した」と偽って発表したわけではなく、実際に生徒は合格しているので、昨今世間を賑わせている「偽装表示」の類とは少々性質が異なるのです。
 今回は、このような事態が起きた背景を見ていきたいと思います。

「○○高校△名合格!」は、生徒集めの有効ツール

 高校に限らず、塾でも予備校でも生徒を集める最も有効なツールとして「合格実績」を用います。「○○高校△名合格!」という塾のチラシを見かけることも多いのではないでしょうか。一般的に(と言っても業界の常識ですが)ひとりの生徒が4校に合格すると、チラシには「A高校1名、B高校1名、C高校1名、D高校1名 合格」と表示されます。首都圏の高校入試の場合、最も多い生徒で7~8校を受験する場合があります。中学受験の場合でも平均5~6校の受験をします。塾や予備校が示す合格実績は、最初からこういうからくりがあると思ってチラシを見ていくことが必要です。
 それに対して大学入試はどうでしょう。中学入試、高校入試に比べて入試日程が集中していないことや、入試システムの変更などによって、ひとりの生徒が多くの大学を受験することができます。関東、関西と受験行脚をすれば10校以上受けることも難しいことではありません。各高校が公表する大学合格実績も、もしもひとりで10校に合格すれば塾や予備校と同じように、「A大学1名、B大学1名、C大学1名、……」とカウントされている場合が多いのです。

関西有名私大218人合格!

 これがどうして「水増し」と報道されたのでしょうか。皆さんはひとりで何校までの合格であれば許容できますか?昨年報道された高校の中には、受験料を学校が負担した上でひとりがなんと73の学部・学科に合格したところがあるのです。
 また別の高校では、成績が優秀な7人の生徒に関西の有名私大など6大学の計223学部・学科を受験させ、うち186学部・学科に合格していたことがわかりました。特に「関関同立」と呼ばれる関西の4私大の合格者は、高校が発表している延べ218人のうち、実績の約8割がこの7人によるものだったことが明らかになったのです。受験料300万円も学校が負担したそうです。この状況に気づいた保護者などから「いくらなんでもやりすぎだ!」という声が挙がったことが、一連の報道につながっているのです。
 大阪府では私立101校のうち31校が同様の受験をさせていたほか、京都や滋賀、埼玉などの高校でも同様の問題が発覚しました。少子化の影響で生徒集めに苦労する学校も少なくない中、学校の特色作りとして進学実績をアピールする高校があるのは当然です。
 しかしながら、高校側が公表した進学実績が限りなくグレーなものであったとすれば、それを信じて入学した生徒や保護者はたまったものではありません。塾や予備校であればやめてしまえば済みますが、学校はそういうわけにはいきません。
 在校生の親の立場で見れば「だまされた!」「もっと他のことにお金を使え!」と言いたくなるのも無理はありません。「水増し」という表現は、こうした保護者の目線から生まれているわけなのです。


ひとりで73学部・学科に合格する方法

 どうしてひとりで73学部・学科も合格することができるのか、そのメカニズムも紹介しておかなければなりません。その背景には「大学入試センター試験」が存在します。かつての共通一次試験は、国公立大学を受験する生徒のみが受験するものでしたが、現在のセンター試験は私立大学の多くも利用するようになっています(98年180大学→08年466大学)。一部の私立大学はセンター試験の得点申告だけで受験でき、合否判定が行われる入試制度を設けているため、受験生は実際に大学に足を運ぶことなく合格通知をもらうことができるのです。センター試験を1回受けておけば、受験料さえ払えばこうした私立大学にいくつも出願することができるのです。
 この制度は、受験生にとっては大学選択の幅が広がり、大学側にとっては受験料収入アップにつながるためどちらにもメリットがあり、簡単に言えば「うまくできている」ものなのです。今回「水増し」の大量合格を出した高校は、この仕組みを上手に利用したことになります。


「合格実績」にからくりあり!

 この「水増し」問題は被害者がいないことが特徴です。成績優秀な生徒はおそらく納得の上で出願に協力しているのでしょうから(学校からの懇願だとしても、金銭的にも時間的にも本人の負担はありません)、部外者が口を出すことができないのです。あえて被害者を捜すとすれば、こうした実績のからくりを読み取ることができなかった人たち(高校受験生とその保護者)ということになります。
 中学受験・高校受験を問わず、学校選びの大きなポイントとして「合格実績」に注目することはわかりますが、そのからくりに惑わされず本質を読み取る目も同時に養っておく必要があります。


vol.6 ブンブンどりむ 保護者向け情報誌「ぱぁとなぁ」2008年 9月号掲載

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