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Vol.62 東京大学も始める「推薦入試」の実情について

 

 2016年(平成28年)度の大学入試から、東京大学と京都大学が揃って「ペーパーテスト以外の資質」も考慮して入学者を決める「推薦入試(京大の名称は特色入試)」を導入すると発表しました。
 推薦・AO入試といえば、「学力低下の象徴」「少子化に伴う学生確保のための手段」といったネガティブなイメージを持つ人が多いようですが、その実態についてはよくわからない部分が多いのが現実です。今月は「推薦・AO入試の実情」について見ていきます。

いまどきの推薦・AO入試の実態

 この10年余りで大きく変化した大学入試の流れは次の2つです。
(1)4年制大学への進学率が50%を超えたこと
(2)私立大学に限ると、一般入試以外の選抜方法(推薦入試・AO入試等)で入学した人の割合が50%を超えたこと
です。今回は(2)に注目して見ていきます。2012年度の入試結果を見ると(表1 参照)

 

(表1)2012年(平成24年)度 
 国公私立大学選抜実施状況
 文部科学省「平成24年度国公私立大学入学者選抜実施状況」より

入学者数 うち推薦・AO入試利用者数 割合
国公立大学 100,019 22,997 23.0%
私立大学 464,589 234,571 50.5%

私立大学入試ではAO・推薦がすでに「一般的」になっていることがおわかりいただけると思います。この傾向は「学生集めに困っている大学」に限ったことではなく、早稲田大学を例にとると、

 

(表2)2013年度早稲田大学学部別定員率(文系) 
 国公私立大学選抜実施状況
 文部科学省「平成24年度国公私立大学入学者選抜実施状況」より

学部定員 一般受験定員 一般受験以外
入学者の割合
政治経済学部 900 525 41.7%
法学部 740 450 39.2%
商学部 900 535 40.6%
文学部 660 490 25.8%
文化構想学部 860 570 33.7%
社会科学部 630 500 20.6%
国際教養学部 600 200 66.7%

 附属・系属高校からの内部進学者が含まれていることもあり、表2のように「一般受験をしていない入学者」の割合が決して無視できる数字でなくなっているのです。私立大学受験を考える場合、すでにAO・推薦入試は「一つの入試制度」として市民権を得ており、私が学生時代に散々言われていた「推薦入試=安易な大学選び」とは意味合いがすっかり変わっています。
 たしかに数年前までは「手軽に大学生になれる」お得なキップとされる一面があり、大学側も学生確保の絶好のツールとして使っていたのですが、脱ゆとりに代表される「学力回帰傾向」の中で2011年、2012年と2年続けて「推薦・AO入試利用者の入学者比率」は頭打ちになっていて(若干ながら減少に転じています)、今後の動向が注目されていたところでした。

 

東大・京大の発表でどう変わる?

 そんな中で発表された東大・京大の新たな取り組みについて、キーワードだけ注目してみると「やはり、これからの時代は推薦・AOなのか!」と思いがちですが、その実態は少々違うようです。
 東大の場合は、これまで実施してきた「2次試験の後期日程」を廃止してその枠を使って推薦入試を導入します。「単に成績が良い学生でなく、前期試験とは違うタイプの学生を受け入れる」と副学長がコメントを出しましたが、その募集人員は100人程度しかないのです。
 東京大学の定員が何人かご存知でしょうか。私も確認のために調べてみましたが、募集人員は3063名(平成24年度)でした。今春でも前期合格者だけで3009人だといいます。こうした表に出てこない情報を頭に入れた上で「推薦入試の募集枠100人」を読み直してみると、実は推薦入試の枠がわずか3%程度しかないことがわかります。京大の特色入試も募集人員は100名程度とのことですから、状況は東大と同じでしょう。
 簡単に言えば「実験」なのです。
 同じ「推薦入試」という名称であっても、私立大学のそれとは中身が全く違うことを理解しておけば、現在小学生のお子さまをお持ちの保護者の方々が今から右往左往する必要は全くありません。東大・京大は「センター試験の成績で一定の水準に達していること」を課すことで学力の担保を図るようですから、今後国立他大学に波及したとしてもその傾向は変わらないでしょう。むしろ、私立大学の中にも「学校の成績以外で学力をチェックする」ところが増え、従来の推薦入試とは色合いが変わると思います。

推薦・AO入試で問われることは「発信力」

 中学・高校・大学入試を問わず、従来入試を突破するために要求されてきたのは「正解力」でした。しかしながら、「受験学力は高いけれど社会人としてはちょっと……」という学生の存在が問題視されるようになり、大学側も学生への教育方法を見直さざるをえない状況に陥っています。そんな中で注目されているのが推薦・AO入試で問われる「発信力」なのです。
 この入試制度では「小論文・面接・プレゼンテーション」などが合否判定に用いられます。これらは大学に対して「自分を売り込む」ツールですから、自己分析力やコミュニケーション力といった就職活動で必要とされる資質を、高校生の段階で準備していることになります。自分の教え子たちを見ても、従来型の一般入試対策のみで大学に進学した学生に比べて、大学在学中や就職活動時、そして社会人になった後でもイキイキとしている姿が目立ちます。一くくりに推薦・AO入試を「悪者」にしてしまうには少々無理があります。推薦・AO入試には、こうしたポジティブな理由もあることを知っておいてください。

 こうした「発信力」を養うには長期的なビジョンが必要です。お子さまが受講されている作文講座は「文章表現力」として最適です。大学入試の小論文はもちろん、就職活動時には志望理由書・自己推薦書を通して「その会社で何をやりたいのか」という具体的なアピールが必要になりますから、早い段階から準備をして慣れておくだけでも違います。また「自己表現力」は、挨拶や適切な受け答えも含まれます。作文で「自分はこう思う」という一方的な主張だけではなく、「他者の考えを想像・理解し受け入れた上で自分の考えをまとめる」ことを少しずつ練習しておくだけでも、将来には大きなアドバンテージになることでしょう。

vol.62 ブンブンどりむ 保護者向け情報誌「ぱぁとなぁ」2013年 5月号掲載

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