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Vol.95 いい大学を卒業すると将来、幸せになれる?

 

 「勉強は将来何の役に立つの?」「いい大学を卒業すると将来、幸せになれる?」という疑問は、いつの時代も子どもたちが一度は持つものですが、肯定的な考えを持てばそれが勉強に対するモチベーションにつながることはいうまでもありません。はたして小中学生は、この疑問に対してどのような意識を持っているのでしょうか。

「勉強は将来に役立つ」と考える今の子どもたち

■ 学校の勉強は、次のことにどのくらい役立つと思いますか

    小学生 中学生 高校生
お金持ちになるために
06 年 47.8% 49.3% 54.5%
15 年 57.8% 60.7% 66.8%
心にゆとりがある幸せな生活を送るために
06 年 82.8% 70.3% 58.1%
15 年 86.4% 80.4% 73.5%
尊敬される人になる ために
06 年 74.0% 70.0% 64.4%
15 年 81.0% 80.9% 76.5%
いいお父さん、お母さんになるために
06 年 85.5% 66.5% 52.8%
15 年 89.3% 77.6% 66.9%

「とても役に立つ+まあ役に立つ」の合計

 いま私の手元にある「第5 回 学習基本調査」という調査結果では、時系列で子どもたちの「勉強の効用感」「社会観・将来観」に関する動向の変化を知ることができます。これによると、10年前の子どもたちに比べて、今の子どもたちの意識に明らかな変化が見られる点がいくつかあるのです。
 ゆとり教育のど真ん中にあった2006年の子どもたちに対する調査結果と比べると、今回紹介した項目はもちろん、それ以外についても全体的に、勉強の効用に対する評価・意識は軒並み上昇し、肯定的になっている傾向が見られます。特に中高生の数値上昇傾向が顕著で、「お金持ちになるために」「尊敬される人になるために」といった地位達成に関する項目ではそれぞれ10ポイント以上の上昇が、「心にゆとりがある幸せな生活を送るために」「いいお父さん、お母さんになるために」といった生活の豊かさへの有用感については、高校生では15ポイント前後の上昇となっています。
 2006年の調査において小学生、中学生、高校生と学年が進むにつれて数値が減少している項目のいくつかで、2015年の調査では減少幅が大きく改善されていることがおわかりいただけると思います。いわゆる「脱ゆとり」と呼ばれる教育改革では、英語や数学のカリキュラム改訂を中心として学力面の改善に注目が集まっていましたが、その土台である「勉強する目的・意識」を明確に持たせることについては、その効果が目視できる段階まで来ているようです。

■ あなたは、次の意見をどう思いますか

    小学生 中学生 高校生
いい大学を卒業すると将来、幸せになれる
96 年 59.9% 44.6% 38.8%
06 年 61.2% 44.6% 38.1%
15 年 78.1% 60.6% 50.9%
お金がたくさんあると幸せになれる
96 年 49.4% 53.1% 62.8%
06 年 46.1% 56.0% 62.7%
15 年 57.5% 64.1% 67.0%
将来、一流の会社に入ったり、一流の仕事に就きたい
96 年 59.1% 46.2% 51.0%
06 年 59.8% 49.6% 51.8%
15 年 70.8% 58.4% 62.8%
日本は、努力すれば報われる社会だ
96 年 調査なし 調査なし 調査なし
06 年 68.5% 54.3% 45.4%
15年 81.8% 65.6% 50.3%

「とてもそう思う+まあそう思う」の合計 

小学生の8割が「いい大学を卒業すると将来、幸せになれる」と回答

 続いて、子どもたちの将来観に関するデータを紹介します(上表)。目をひくのは、2000年前後に起こった「ゆとり教育・学力低下論争」以前の調査結果(96年)の数値すら上回っている項目と世代の傾向です。「いい大学を卒業すると将来、幸せになれる」という項目では、96年から06年にかけての数値が各世代ともに減少または横ばいだったにもかかわらず、今回の調査では小学生は16.9ポイント増、中学生は16・0ポイント増、高校生でも12.8ポイント増と大幅な上昇に転じていることがわかります。また、「将来、一流の会社に入ったり、一流の仕事に就きたい」という項目でも各世代10ポイント前後数値が上昇していて、大学・会社・仕事に対する志向の高まりが顕著になっています。
 大人目線で最も興味深いのは「日本は、努力すれば報われる社会だ」という項目でしょうか。小学生は13.3ポイント、中学生でも11.3ポイントもの上昇になっていて、自身の努力に対する肯定感が高まっていることが見てとれます。ついつい「現実はそんなことないよ」と愚痴の一つも言いたくなりそうですが、それをグッとこらえてお子さまの今後の学習や生活習慣に好影響を及ぼすよう肯定的に後押しをしてあげたいですね。現在持っているこの意識が今後も持続するのかどうか、この世代の将来に注目したくなります。
 以前ご紹介した別の調査結果では、「忙しい」「時間が足りない」と考える子どもが増えている傾向がありました。それに今回の調査結果を重ね合わせると、今の子どもたちは習い事や部活、スマホを介したコミュニケーションなどで自由時間を消費しながらも、「勉強もちゃんとやらなきゃ!」と意識を持ち合わせているのだろうと推測できます。
 ということは全体的な傾向として、10年前とは授業中の教室の雰囲気も変わっているでしょう。「勉強なんてしなくていいよね」という雰囲気に包まれていたであろうと想像できた時代は去り、表面には出てこないかもしれませんが、子どもたちそれぞれが「ちゃんと勉強もしよう」という気持ちを胸に秘めていると思ってください。
 最後に、この調査結果を見て一人の大人として反省があります。今回の調査における質問項目が社会的に見て正しいか否かという議論は一旦置いておいて、子どもたちが感じ始めている「未来に対する肯定感」を否定してしまうような言動は慎まなければ、と強く思いました。保護者として自分の子どもを、社会の一員として子どもたちを、私たちこそが一番応援しなければ、日本の未来が明るくなるはずがないと今さらながら気づかされました。

参考 ベネッセ教育総合研究所 第5回学習基本調査データブック 2015年

vol.95 ブンブンどりむ 保護者向け情報誌「ぱぁとなぁ」2016年3月号掲載

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