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Vol.96 小学生の「自主的な学習」が重視される理由

 

 前回の記事で「子どもたちが『勉強は将来役に立つ』と考える割合が増えている」ことを、データをもとに紹介しました。今回はその根拠についてもう少し具体的に、勉強時間や勉強の内容の変化について紹介していきます。その過程で登場する「自主的な学習」という聞きなれない項目に注目してください。

学習時間と学習内容の明確な変化

 前回に続いて「第5回 学習基本調査」という調査結果を用いて、現在の小中高生の勉強を取り巻く環境について見ていくことにします。子どもたちの勉強への向き合い方の変化にご注目ください。

■ 平日の平均学習時間(学校の授業を除く)単位:分

  小学生 中学生 高校生
1990年

87.2

96.9

93.7

1996年

77.9

90.0

77.8

2001年

71.5

80.3

70.6

2006年

81.5

87.0

70.5

2015年
( )内は宿題の時間
95.8
(49.8)
90.0
(45.3)
84.4
(54.4)

学習塾・予備校、家庭教師について勉強する時間を含む

 小中学生の学習時間は、2001年を境にハッキリと増加に転じていることがおわかりいただけると思います。小学生に至っては、詰め込み教育が問題視されていた1990年を上回る過去最長時間になっていることからもわかるとおり、新学習指導要領実施に伴う「勉強量の増加」の影響が明確になっています。06年から15年にかけての変化を地域別にみると、大都市(4分増)に比べて地方都市( 19分増)、郡部( 20分増)と勉強時間の増加量に差があること、勉強時間に対する宿題の割合も大都市の40.5%に対して、地方都市( 56.6%)と郡部( 70.0%)と明確に差があることが注目されます。
 ちなみに、高校生では「偏差値別」の学習時間調査も行われていて、「偏差値50以上55未満」の層で前回調査に比べて25分弱もの大幅増となっていて、偏差値50前後を境として「勉強に対する姿勢の二極化」が進んでいる様子がうかがえるのです。
 次にご覧いただきたいのは宿題の内容です。お子さまの普段の様子と照らし合わせてみてください。

■ 宿題の種類と頻度(2015年:週4日以上「する」と答えた 割合) 単位:%

  小学生 中学生
プリントやドリル 52.6 21.5
作文(中学生は小論文も) 7.7 1.1
調べ学習(中学生はレポートも) 9.0 1.4
自学ノートなど自主的な学習 42.6 53.4

 これを見ると、いまの小中学生にとって「自主的な学習」がすでに浸透していることがわかります。
 しかしながら「自主的な学習」といっても、子どもに任せてしまえばその中身が千差万別になってしまうことは明らか。子どもの自主性を養うためには過干渉は禁物ですが、その一方で「宿題をちゃんとやっているからOK」ではなく「何を勉強しているのか」を確認しておく必要もありそうです。
 このあたりのさじ加減を間違えると、我々保護者は「ちゃんと勉強しているはずなのに、どうして成績が良くないのかしら」と悩む場面に遭遇してしまう可能性があるのです。

「自主的な学習」の中身はなに?

 それではここで、気になる「自主的な学習」の中身について、調査結果から推測してみます。

■ 家での学習の様子 単位:%

  授業で習ったことを
自分でもっと詳しく調べる
自分で興味を持ったことを
学校の勉強に関係なく調べる
授業で習ったことは
その日のうちに復習する
  小学生 中学生 小学生 中学生 小学生 中学生
90年 35.7 33.3 62.3 調査無 46.0 40.2
96年 55.9 41.7 66.4 調査無 50.6 48.8
01年 54.8 39.2 63.4 59.1 47.5 41.8
06年 57.4 42.8 64.8 58.0 52.3 48.9
15年 72.8 58.0 73.2 73.0 65.5 57.0

「あてはまる」+「まああてはまる」の合計

 90年と15年の数値を見比べると、子どもたちの「勉強の質」が大きく変わっていることに驚かれるのではないでしょうか。自分の小学生時代を振り返っても、宿題といえばプリントやドリルなどの「課題をこなす」ものだった記憶しかありません。自分の興味あるものを詳しく調べようと思っても、せいぜい図書館で百科事典などの書物にあたる程度だったと思います。ところが現在は、PCやスマホといった機器の進化によって、いつでもどこでも情報にアクセスすることができます。自分が興味・関心を抱いたことについて、いくらでも深く掘り下げることができるようになりました。こうした機器を駆使することが当たり前の世代にとっては、おそらく知識は「与えられるもの」ではなく「自分で獲得するもの」という感覚なのでしょう。こうした姿勢が小学生のうちから身につき始めているとすれば頼もしい限りですし、我々保護者は時代背景の変化を充分に理解した上でできる限りのサポートをしてあげたいものです。
 特に上昇幅の大きい「授業で習ったことを、自分でもっと詳しく調べる」という項目は、15年は90年に比べるとおよそ2倍、06年に比べても15ポイントもの増加となっていて、これこそが「自主的な学習」の正体なのかもしれません。塾講師として自戒を込めて申し上げますが、中学受験塾の授業スタイルは一部(公立中高一貫対策)を除けば、90年当時からおおむね変わっていません。一方的に知識を与え、それを使えるようにする練習を積み重ねることで時間を使います。塾の授業についてきている子どもはともかく、課される大量の宿題を消化できずにアップアップしている子どもたちにとっては、それが「自主的な学習」とは対極にある時間の使い方であることに気づいておかないと、中学・高校と進んだ段階でいつか「こんなはずじゃなかった」と後悔する確率が高まってしまうかもしれません。

 最後に、高校生の「大学入試に対する考え方」のデータから、今後の小中学生の「勉強に対する方向性」を読み取ってみます。大学入試を希望する高校生では「推薦・AO入試」を希望する割合が、06年の調査に比べて今回は10ポイント以上減少していることを覚えておいてください。特に「偏差値45以上50未満」の層では20ポイントに近い減少幅になっていて、「一般入試」を希望する傾向に転じています。しかし、東京大学で推薦入試が始まったことや、大学入試改革によって選抜評価基準が変わるかもしれないことなど、子どもたちの勉強にとって「とりあえずのゴール」でもある大学入試を取り巻く環境はまだまだ流動的です。だからこそ「環境がどのように変わろうとも、変わらない確かな学力を身につける」「大学合格をゴールとしない目標の設定、勉強に対する動機の明確化」を早い段階から意識しておくことが大切なのです。
 世の中の流れが昔に比べて圧倒的に速いのですから、今の子どもたちは大学受験が終わろうとも一生学び続けなければ、すぐに時代遅れとなり取り残されて終わりになってしまうことでしょう。その「一生学び続ける姿勢」の土台が小学生時代にあることを、このデータは教えてくれているのです。

参考 ベネッセ教育総合研究所 第5回学習基本調査データブック 2015年

vol.96 ブンブンどりむ 保護者向け情報誌「ぱぁとなぁ」2016年4月号掲載

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